第84章

翌朝早く、稲垣栄作が会社へ向かおうとしていた。

使用人が彼に、誰かが来て二つのものを届けたと伝えた。

稲垣栄作は袖口のボタンを留めながら、眉間がゆるんだ。「どこにある?」

使用人が丁寧な紙箱を二つ捧げ持ち、二階へ運ぼうとしたが、稲垣栄作は淡々と言った。「自分でやる」

彼は箱を二階へ持ち上げ、そっと開けた。

その二つのものは修復され、きれいに整えられていたが、職人が言った通り、どんな高い技術をもってしても感情は修復できず、高橋遥がかつて書き記した文字も元に戻せなかった。

日記帳、半分は高橋遥の情熱的で少し愚直な文字。

もう半分は、白い絹紙。

稲垣栄作は長い指でそれらの文字を優し...

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